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BE HAPPY, BE BRIGHT , BE YOU .
ようこそ、愛子先生のキッチン・ガーデンへ。

Balance the body and soul
私のからだが、私自身であるために。
RIKKA ライフバランス・クロストーク

Today’s Guest
ファッションデザイナー/ テーラー  AKI NAGAIさん

大阪の郊外・北摂の住宅街にある小さなキッチンスタジオ。
ハーブが生い茂るお庭のあるそのスタジオには、
時折、巷で忙しく活躍する大人の女性たちがほっと一息つくために訪れます。
このキッチンスタジオの主人は、”愛子先生”とみんなから呼ばれ、親しまれる
陽気でちょっとお茶目なマダム。
さて、本日のお客様は自らデザインした美しいドレスを纏ったファッションデザイナー。
まだ35歳という若さに似合わぬ度胸と覚悟で
世界に向かって、大胆に人生を切り開こうとしている女性です。
数々の奇跡的なシンクロニシティに導かれた
彼女のドラマティックな人生のストーリーは、
年代を超えて、私たちに生きる勇気と元気を与えてくれるものです。

新聞記事をきっかけに法律からファッションの世界へ。

愛子)最近は銀座のデパートにご自身のブランドのポップアップショップを出されたり、海外のお仕事も増えて随分お忙しそうね。関西に戻るのも久しぶりでしょう?

AKI) おかげさまで忙しくさせていただいています。今朝も4時から仮縫いの準備をして、仮縫いを済ませて、ようやくこちらにたどり着きました。

愛子)AKIさんは小さいころからそんなに活動的な女の子だったの?

AKI)確かに子どもの頃から好奇心がすごく旺盛で、じっとしていられない子でした。

愛子)聞くところによると、学生の頃は弁護士を目指していたんでしょう? 正義感が強い子だったのね。

AKI)私が小学校6年生の時にちょうど神戸で榊原事件があって、私と同い年の子があんな残酷な事件を起こしてすごくショックだったんです。犯人の少年が何であんなことをしたんだろうと疑問に感じて、そこから少年法に興味を持つようになったんです。

愛子) 小学生の頃から少年法に興味があったなんて驚きです。

AKI)当時は子どもながらに少年の心理や動機を悶々と考えたり、その子がどうやって大人になっていくか、その将来がすごく気になっていたんですね。それで高校の進路相談の時にそういう話をぽろっと先生にしたら、「それなら少年法を勉強してみないか?」って言われたんです。先生と一緒に色々なことを調べて勉強するうちに、自分は犯罪を犯した少年少女たちの更生に関わる仕事がしたいと思うようになりました。

愛子)なるほど、それが大学で法律を学ぶことに繋がっていったわけね。

AKI)ところが大学で勉強するうちに、これが私が目指していることと本当にマッチしているのか?法律という立場からそういった問題に関わるのが私らしい選択なのか?少しずつ疑問に思うようになっていました。そんな時、たまたま新聞で山本耀司さんのインタビュー記事を読んだんです。即座に、あ、この人私と同じこと考えてる!と思って彼の経歴を見たら、何と法学部卒業! なのに今はファッション・デザイナーという全く違う職業についている…この人ならきっと私に何かいいアドバイスをくれるに違いない、と思って全くの直感だけで彼に手紙を書いたんです。それが、すべての始まりでした。

ヨウジヤマモトで学んだものづくりの真髄

AKI)しばらくして、驚いたことに彼から手紙の返事が来て、本格的にファッションを学んでみるように勧められました。最初に言われたのは「自分が表現したいことが世界的に通用するものなのかを確かめて来なさい」ということでした。そこで私はイタリアのミラノにあるデザイン学校に通うことを決め、1年間、そこで自分のコンセプトやテーマを服飾で表現するという手法を研究しました。そして何とか海外で手応えを感じて帰国すると、今度はとても幸運なことに彼から直接パターンを教えていただけることになったんです。その上、次期コレクションの製作にまで関われることになり、無我夢中で取り組みました。
愛子)直感に導かれるようにしてファッションと出会ったのね。それにしても彼から直接教えを受けるなんて、何と幸運なんでしょう!

AKI)本当にたくさんのことを学ばせていただきました。あの頃は20代前半だったので、当時わからなかった彼の言葉がようやく理解できるようになりました。仕事の大切なシーンが訪れるたびに、幾つもの言葉が蘇って来ます。

愛子)人って何かを学んでいる最中はその本当の意味がわからないのよ、後で知るの。

AKI)素材の選択やデザインにも一つ一つ奥深い意図があったことを、今もよく思い返すことがありますね。

愛子)まさに彼のクリエイションが世界に認められた理由ね。

AKI)シーチングで作ったなんの変哲もないワンピースが、彼が手を加えた瞬間にドレスに変わるんです。それを見た瞬間に私、鳥肌が立つほど感激しました。ハサミも入れず、ピン打ちだけで服の表情を変えることができる、まるで魔術師のような方ですよ。

イタリアで見つけた「個を表現すること」の大切さ

愛子)AKIさんのテーラーメイドの技術はイタリアで勉強したんでしょう?

AKI)はい、テーラーメイドを極めるには、やはりイタリアしかないと考えたので。その中でも日本人が少ない場所を、ということでシチリアを選びました。何のアテもなかったんですが、町中で素敵なファッションの男性を見つけて「あなたのご存知の仕立て屋を教えてください」って頼んで、その場で電話をかけてもらって。そのお店からは一旦断られましたが、それでも押しかけて行ってここで働かせてください!って頼み込んだら受け入れてくれたんです。日本での仕事もあったので、日本とシチリアを往復しながら、メンズの仕立てを学びました。

愛子)その度胸は素晴らしいわ!(笑)イタリアでは主にどんなことを学んだのかしら?

AKI)技術もですが、精神的なことが大きかったと思います。私がイタリアに行ったのは2008年。当時のファッション界は、まだ公然と人種差別があった時代だったんですね。大手のメゾンでは採用の時に人種が問われたりとかも普通でした。そんな中でよく日本人って個性がないって言われるんですよ。だからアイデンティティとしては「日本人のAKI」になっちゃうんですね。それがイタリアという文化の中で暮らすうちに、日本人の枠を外した一人の人間「AKI」として外国の方に認められたと実感することができました。その時、私は日本人に欠けているものがわかったんです。“個のあり方”、つまり自分自身のアイデンティティについて日本人は普段、意識しないで生きているけれど、世界に出て行くにはそれが必要なんですね。

愛子)ほんとに大切なことですね。日本人はすぐカテゴリーに入りたがる。結婚して夫がいるとか、子どもがいてママであるとか、OLだとか、おひとり様だとか。(笑)社会での役割の分類ではなく、“カテゴリーを自分で作る”という事が大事ですね。なかなか、世の中に自分にぴったり当てはまるカテゴリーなんてないですからね。

AKI) 例えばヨウジ・ヤマモトの服はある程度覚悟がないと着れない服なんですよ。でもそういう服って“力”が宿ってると思うんですね。その分、着る人の「個の力」が試されるというか…。本当の意味での個性がなければ着こなせないと思います。

愛子) まさにキーワードは「覚悟」よね。料理もいっしょで、料理研究家になりたいと言ってくる人は多いけれど、今の仕事は辞めずにおきたい、それでいて寝る間も惜しんでやるわけでもなく…なんて都合のいいようには行かないのよね。やっぱり学ぶには覚悟を決めてやらないと、なかなか実にはならないわね。

AKI)確かに、その通りですよね。ファッションだと良い服を見たり着たりして目を肥やす必要もあるし、そういう意味で自己投資ってほんとに必要なんです。たとえば、いつもファストファッションばかり着てる人はやっぱり良い服なんて作れないですよ。私、今年で35才になるんですが、いわゆる「ハングリー精神」を糧にしてきたのは、私たち世代でぎりぎりじゃないですかね。今の若い世代ではもう私たちのような考え方は少なくなっていると思います。

愛子) 実際は35才でもすごく珍しい事だと思いますよ。私はそれを「アンビシャス」と呼びたいわ。なんかね、野心家というとすごくいやらしい感じに取られてしまうけれど、ものすごく大事なことよ。そのための自己犠牲もあるでしょう。自分のプライベートな時間を削って努力するみたいな。

AKI)イタリア留学時代はそれこそ一番安い小麦粉を買って、自分でうどんを作って食べてましたよ。でも、そこまでしたからこそ夢に近づいている実感のようなものがありました。今の子はそういう心の充足感を経験することが少ないというか、自らそういう経験をしようとしてないのかと思ってしまいますね。

愛子)大学で教えててもね、学生も学校側も就職、就職とばかり言うんですね。それで“良い仕事って何?”と尋ねたら、有名企業で、働く時間が短くて、報酬が良くて、人間関係が気楽…この4つを言うらしいの。そんなイージーな考えだと、結局上手くいかなくなると思うんですね。

AKI)そうですよね。楽なことだけを追求していたら、本当の自分の目標にはたどり着けないんじゃないでしょうか。

運命を楽しみながら、世界へと活動の場を広げて

愛子)今日はAKIさんがいらっしゃるので、イタリアをイメージして軽いお料理とワインを楽しんでいただこうと思って…。ベーシックですけれどサルシッチャとカプレーゼをご用意しました。

AKI)カプレーゼのバジルはお庭から摘んできたんですね。香りが鮮やかでとてもフレッシュですね。

愛子)このお皿は、ここのくぼみにオリーブオイル入れてパンにつけて食べるためのお皿なの。オリーブ専用のお皿なのね、面白いでしょう。日本とのコラボで作られた珍しい柚子入りのオリーブオイルを料理にかけて召し上がれ。

AKI)お皿の柄がクラシカルでいかにもイタリアっぽいです。ワインと簡単なお料理が2品あるだけで、こんなに素敵なおもてなしのテーブルが作れるんですね。

愛子)お料理と言ったって材料をカットするだけだから簡単よ!贅沢な食材がなくても”おもてなし”はアイデア次第だと思います。ところでAKIさんはこれからどんな人生のビジョンを持っているのかしら?

AKI)最近はパリに続いてロンドン、ニューヨークにも足を伸ばしてアプローチを始めているんですが、私は何でも3年が勝負だと思っているんです。種まきして3年以内にある程度の成果を出さなければいけないと決めています。また、将来的には最初にお話しした“子どもたちの成長をサポートする活動”も、ファッションを通じて何かの形で取り組んでみたいと考えていますし、課題はまだまだたくさんあります。

愛子)それだけしっかりとした覚悟ができているのはいいわね。私は人前に出る機会も多いから、服は自分のイメージ作りの大切な要素なの。そういう意味でもこれからの時代、自己表現のひとつとしての服がもっと大切になってくる時代ね。最初にスティーブ・ジョブズがスーツではなく黒のタートルとデニムを着て新作発表会に現れた時はすごく衝撃的だったと思うけれど、やがてそれは彼のアイコンになった。彼は即物的な考えを嫌う人だったから華美な服装は必要なかったけれど、やっぱり何のフィロソフィー(哲学)もない人があれを真似してもダメなのね。AKIさんの作る服には、覚悟から来る強いフィロソフィーが感じらます。

AKI) ありがとうございます。洋服を通じて己を知るという事は非常に大切なことだと思います。私がプレタポルテではなくテーラーメイドに惹かれるのも、一人一人のお客様と向き合いながら私の目と感性を通して“お客様の個性”を浮き彫りにできるからなんです。基本的には採寸から始まって何度かコミュニケーションを取りながら、私のインスピレーションでお客様のイメージを作り上げていく感じです。「お任せ」がベースなので責任も感じますがその分やりがいもあります。どうせ作るなら本物、上質なものに仕上げたいというこだわりはありますね。最近では口コミで徐々に広がってきているのがありがたく、嬉しい限りです。

愛子)あなたのように情熱的に取り組んでいれば、運命は自ずと開けるものですからね。そのパワーには脱帽するわ。

AKI)私はよく蝶ネクタイなどの作品に「Enjoy your fate」という言葉を入れることがあるんです。直訳すると、“運命を楽しみましょう”なんですが、「人はそれぞれが違うから、自分に合うものを選んで楽しみましょう」という思いが入っているんです。

愛子)運命を楽しむ〜なんて素敵な表現ね。これからぜひ世界をステージに活躍してくださいね!

Profile AKI NAGAI(写真左)
ファッションデザイナー / テーラー
大阪市出身。関西大学法学部を卒業後、ファッションデザイナー山本耀司に触発されてファッションの道を志す。イタリアに移住し、ミラノのIstituto Marangoniでファッションデザインのコースを修了。帰国後はYohji Yamamoto Femmeのコレクションに携わりながら多彩なレディース・ファッションの経験を積む。その後再びイタリアに渡り、シチリア島パレルモにて伝統的な仕立て技術を習得。現在はファッションデザイナーとしての「AKI」、テーラーとしての「gile't gile」の2つのブランドを手がけている。

Profile Aiko Tanaka(写真右)
田中愛子 大阪樟蔭女子大学教授/料理本著者/リスタクリナリースクール主宰
大阪に生まれる。大阪樟蔭女子大学英文学科卒。結婚後、料理家・吉岡昭子氏のもとで日本伝統の家庭料理の基礎を学ぶ。その後夫の仕事でニューヨークを起点に世界各地へ渡航。ニューヨーク五番街でセレブリティに愛された伝説の日本食レストラン「神話」の経営に携わる傍ら、世界の家庭料理、食文化を研究する。帰国後、料理学校「リスタクリナリースクール」を開校。2009年「食育ハーブガーデン協会」を設立。2011年大阪樟蔭女子高校教育アドバイザーに就任。2015年4月には大阪樟蔭女子大学教授に就任。日本の大学で初の「フードスタディ」専門コースを開講。教育活動とともに自らの研究活動、著作活動を積極的に行っている。NHK「きょうの料理」への出演ほか、食のエッセイや海外取材などメディアでも活躍の場を広げている。著書多数。

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